送迎の安全を考える
「学校の遠征だから大丈夫」。そう信じて、わが子を送り出していませんか。
車は、ハンドルを握る人と、その人を管理する仕組みで安全が決まります。部活遠征の送迎を、プロの運行管理という視点から考えます。
安全を最優先にするか、料金を最優先にするか。
朝早く、大きなバッグを抱えて「行ってきます」と出ていく子ども。部活遠征の送迎を学校や先生に任せるのは、親として自然なことです。けれど2026年9月、また一つ、遠征に向かう高校生を乗せたマイクロバスの事故が報じられました。運転していたのは、プロのドライバーではなく学校の先生でした。この記事では、ジャンボタクシーを運行する事業者の立場から、部活遠征の送迎で「プロの運転手」と「一般の運転手」の間に何が違うのかを比較し、安全と料金のどちらを優先するかを考える材料をお届けします。
また起きてしまった、部活遠征へ向かう途中の事故
報道によると、事故の概要は次のとおりです。原因や経緯は警察が調べている段階であり、ここでは報じられている事実のみを整理します。
- 日時
- 2026年9月26日 午前7時50分ごろ
- 場所
- 三重県津市の市道(JR名松線の高架橋付近)
- 状況
- 三重県立の高校の野球部員12人を乗せたマイクロバスが、高さ制限2メートルの高架橋手前で高さ制限バーに衝突。バスの車高は約2.6メートルと報じられています
- 運転手
- 同校の45歳の男性教員(けがなし)
- 被害
- 部員8人が病院へ搬送され、1年生の男子部員が頸椎を骨折するなど6人が重軽傷と報じられています
- 目的
- 滋賀県大津市への遠征に向かう途中、学校を出発して間もなくの事故
※けがをされた生徒の皆さまの一日も早い回復を、心よりお祈り申し上げます。
2026年5月にも、福島県の磐越自動車道で、新潟県の高校のソフトテニス部員を乗せたマイクロバスが事故を起こし、生徒1人が亡くなっています。この事故では、貸切バスではなくレンタカーが使われ、運転手が旅客を運ぶための二種免許を持っていなかったことが問題として報じられました。
これは「一人の先生」だけの問題ではありません
先生方は教育のプロです。けれど、大型の車両で大勢の命を預かる「運転のプロ」として訓練され、管理されているわけではありません。本業の授業や部活指導、休日の引率に加えて運転まで担う構造そのものに、無理が生じやすい面があります。個人を責めるのではなく、「誰が運転し、誰がその運転手を管理しているのか」という仕組みに目を向けることが大切だと、私たちは考えています。
子を持つ親として、胸が痛む理由
学校は、親にとって「信じて子どもを預ける場所」です。だからこそ、送迎の運転手がその朝どれだけ眠れていたのか、体調はどうだったのか、といったことまで確認する親はほとんどいません。確認しようにも、その手段がないのが実情です。
たとえば、こんな場面を思い浮かべてみてください。
- 前日は夜遅くまで仕事や準備に追われ、翌朝は早朝出発。運転手の睡眠時間を、出発前に誰かが確かめているでしょうか。
- 普段は乗用車しか運転しない人が、車高も車幅も違う大きな車を運転する。慣れた道でも、「この車で通れるか」を事前に調べているでしょうか。
- 運転手に持病や服薬があったとしても、それを把握し、運転を任せてよいか判断する立場の人はいるでしょうか。
どれも、悪意や怠慢がなくても起こり得ることです。そして、一般の運転手の場合、こうした確認は多くが「本人の判断」に委ねられています。
プロと一般の運転手、安全管理はここまで違う
運転免許には、自家用車などを運転するための「第一種免許」と、お客さまを乗せて運賃をいただく旅客運送のための「第二種免許」があります。一種免許があれば基本的に誰でも運転できますが、タクシーやハイヤー、バスの運転手は二種免許を持ち、さらに国の定める運行管理の仕組みのもとで働いています。主な違いを比べてみましょう。
| 比較項目 | プロの運転手(旅客運送事業者) | 一般の運転手(自家用・ボランティア等) |
|---|---|---|
| 免許 | 第二種免許。受験には原則21歳以上かつ運転経験3年以上(特例教習修了で19歳以上・1年以上)が必要で、旅客を乗せる前提の技能試験 | 第一種免許。旅客運送のための試験は受けていない |
| 乗務前の確認 | 運行管理者等による点呼で、酒気帯びの有無、疾病・疲労・睡眠不足の状況を確認し記録 | 基本的に本人の自己判断 |
| 飲酒チェック | 乗務前後にアルコール検知器で確認 | 職場の車両など一部で義務化されているが、個人の運転では任意 |
| 健康管理 | 定期健康診断に加え、既往歴や服薬の状況を事業者が把握し、乗務の可否を判断 | 本人任せ。周囲が持病を知らないことも多い |
| 働き方 | 拘束時間や休息期間に国の基準があり、連続勤務や過労を管理 | 本業の後や休日に運転することも珍しくない |
| 適性の確認 | 新しく運転手になるときや65歳以上で、適性診断を受ける | 免許更新時の手続きのみ |
| 車両・ルート | 日常点検と定期点検を実施。車両の大きさを踏まえてルートを確認 | 整備や経路確認は運転手や所有者次第 |
違い1:前日の睡眠と飲酒、当日の体調を「第三者」が確認する
プロの事業者では、運転手が乗務に就く前に必ず点呼を行います。アルコール検知器での確認に加え、2018年からは「睡眠不足」の状況も点呼で確認し、記録することが求められるようになりました。ポイントは、運転手本人ではなく管理する側が確認することです。「少し眠いけれど大丈夫だろう」という自己判断が入り込む余地を、仕組みで減らしています。
違い2:その日の様子だけでなく、既往歴まで把握している
事故の原因は、その朝の体調だけとは限りません。プロの事業者は、国土交通省の健康管理マニュアルなどに沿って、健康診断の結果や既往歴、服薬の状況を把握し、運転を任せられるかを判断します。一日だけの運転手の様子ではなく、その人の特性を継続的に見ているのが、一般の運転との大きな違いです。
違い3:「一定の条件」がそろわなければ、そもそも運行しない
点呼で問題が見つかれば、プロの運転手はその日ハンドルを握りません。代わりの運転手を立てるか、運行そのものを見合わせます。「今日は行くと決まっているから」ではなく、「安全の条件がそろったから走る」。この順番こそが、運行管理の本質です。
親の不安と、プロの仕組みを並べてみると
先ほど挙げた不安を、一つずつ運行管理の仕組みと照らし合わせてみます。
点呼で睡眠不足を確認
乗務前に管理者が確認し、記録を残します。休息時間の基準もあるため、徹夜明けの運転を防ぐ仕組みがあります。
検知器で乗務前後にチェック
「昨夜は少しだけ」という自己判断に頼らず、数値で確認します。
既往歴・服薬を事業者が把握
健康診断や申告をもとに、乗務してよいかを事業者が判断します。
車両とルートを事前に確認
自社車両の大きさを把握したうえで、当日の経路や乗降場所を打ち合わせます。
料金に含まれているのは「安全」という対策です
プロに頼むと、当然お金がかかります。保護者や先生の運転なら、費用はガソリン代程度で済むかもしれません。その差を「高い」と感じるのは、まったく自然なことです。
ただ、プロの料金には、二種免許を持つ運転手の人件費だけでなく、運行管理者による点呼、健康管理、車両の点検整備、旅客運送のための保険といった、目に見えにくい安全対策の費用が含まれています。料金とは、安全のための対策が講じられたうえでの金額なのです。
割り勘で考えてみると:貸切ジャンボタクシーは、1台あたり乗客9名前後まで(車種により異なります)。1台の料金を乗車人数で割ると、一人あたりの負担は、想像していたよりも差が小さく感じられるかもしれません。まずは行き先と人数で見積りを取り、「一人あたりいくらなら安心を買えるか」で比べてみてください。
貸切ジャンボタクシーが向いているケース、向かないケース
正直にお伝えすると、すべての遠征にジャンボタクシーが最適なわけではありません。部員が20人、30人と多い場合は、同じく国の許可と運行管理のもとで運行する貸切バス事業者に相談するほうが合理的です。
一方で、次のような場面では、ジャンボタクシーの機動力が活きます。
- 数人から十数人規模の少人数チームで、会場まで乗り換えなしで移動したい
- 早朝出発や、駅から離れた会場・合宿所への移動がある
- 大会の結果次第で帰る時間が変わるなど、時間の融通がほしい
- 先生が運転から離れ、移動中も生徒の様子を見ることに集中したい
あなたのチームの次の遠征では、誰が運転し、その運転手の睡眠や体調を誰が確かめる予定でしょうか。一度、具体的に思い浮かべてみてください。
送迎を依頼する前に確認したい5つのこと
ジャンボタクシーに限らず、学校や保護者会が送迎を手配するときには、次の点を確認しておくと安心です。
- 国の許可を受けた旅客運送事業者か(事業用の緑ナンバーの車両か)
- 運転手は第二種免許を持っているか
- 乗務前の点呼(飲酒・体調・睡眠の確認)を行っているか
- 旅客運送に対応した保険に加入しているか
- 人数と荷物量に合った車種・台数を提案してくれるか
お問い合わせから遠征当日までの流れ
- webフォームでお問い合わせ:日時、人数、荷物の量、行き先(会場・宿泊先)をお知らせください。
- 車種・ルート・お見積りのご提案:人数と荷物に合う車両と、無理のない行程をご提案します。
- ご予約の確定:内容にご納得いただけたら確定です。学校・保護者会どちらからのご依頼にも対応します。
- 当日の点呼・出発:点呼を終えた運転手が、学校や集合場所までお迎えにあがります。
ご相談だけでもかまいません。webフォームからのお問い合わせはこちらです。
安全を優先するか、料金を優先するか。
車は、重さが2トンを超えることも珍しくない鉄の塊です。一種免許があれば基本的に誰でも運転できます。
二種免許を持つプロの運転手は、厳しい運行管理のもとで管理され、一定の条件がそろわなければ運行できません。
その違いは、普段は目に見えません。
見えるのは、何かが起きたときです。
私たちも、子を持つ親として、学校を信じて子どもを送り出す気持ちがよく分かります。だからこそ、このような事故に無関心ではいられません。
ガソリン代だけで済む送迎と、安全のための対策が含まれた送迎。どちらを選ぶかに正解を押しつけるつもりはありません。けれど、大切な子どもたちの命を乗せる車を選ぶとき、「料金」と同じ重さで「誰が、どんな管理のもとで運転するのか」を比べていただけたら、と願っています。安全を最優先とするか、料金を最優先とするか。その答えは「何かが起きた時」です。






